2004年受信報告
                                     (財)日本中毒情報センター

はじめに

 2004年秋に日本北西部において原因不明の急性脳症が発生し、その原因のひとつとして、食用のスギヒラタケの可能性が挙げられ世間を騒がせた。本件で厚生労働省から問い合わせを受けた(財)日本中毒情報センター(JPIC)は、原因究明に向けて、新潟県の要請により臨床中毒の専門家を現地に派遣し、該当症例の収集・調査を実施した。その上で、2004年11月に国際化学物質安全性計画(IPCS:The International Programme on Chemical Safety)の要請に応え「日本北西部における急性脳症の現況」を文書として報告した。本件の原因は未だ解明されていないが、JPICにとっては、2001年11月に提案された「NBCテロ対処現地関係機関連携モデル」の集団化学災害連絡体制に基づき、現地関係機関と連携し対応した最初の事例となった。
 また、厚生労働省の委託事業である化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」は、2004年12月に4回目の開催に至った。今回も例年同様、臨床中毒、中毒分析、さらに警察・消防・自衛隊・行政等関係機関の諸先生方のご協力のもと、全国の救命救急センター、災害拠点病院の医師や分析担当者の方々に多数ご参加いただいた。
 さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2004年のタバコ専用電話の利用件数は9,009件(1日約25件)で、賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は36件であった。また、インターネットのJPICホームページへのアクセスは一般市民向けではミラーサイトも含め約123,000件、会員向けでは約9,100件であった。
 「会員向けホームペ−ジ」には、家庭用品、医薬品、自然毒などによる277の症例について閲覧可能な「中毒症例提示データベース」を、新たに掲載した。そのほか、国内外で発生した化学災害のうち、新聞報道などで話題となった内容については、ニュース欄に原因物質などの情報を積極的に掲載した。前述した急性脳症の現況に関する報告内容は、会員向けホームページおよび一般市民向けホームページにも掲載している。
 本稿の報告対象となるのは、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

1.集計方法

 集計の対象は、2004年1月1日から2004年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ33,460件である。受信データにはダイヤルQ2、医療機関専用電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用電話」の利用件数9,009件は含まない(この件数を加えると2004年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は12,198件となる)。起因物質については、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

2.集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ(表1
 対人口10万比は昨年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

2)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表2
 いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多かった。一般市民からの問い合わせは家庭用品が72%と圧倒的に多いが、医療機関からは家庭用品41%、医薬品35%、工業用品、農業用品の順で、様々な起因物質の問い合わせがあった。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ(表3
 全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが77%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50〜100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
 連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが91%を占め、医療機関では47%の問い合わせが20歳以上の成人であった。

4)起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数(表4
 昨年同様、家庭用品、医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多いが、農業用品については20歳以上の成人の問い合わせが73%と圧倒的に多い。

5)発生場所別 受信件数(表5
 例年同様、自宅、知人宅などの居住内で90%が発生していた。

6)起因物質別 受信件数(表6
 単独物質の事故が94%で、残り6%が複数物質の曝露である。なかには9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられた。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ(表7
 各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児では99%以上が誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故である。昨年同様、年齢層が高くなると故意の事故が増加するが、65歳以上の高齢者では不慮の事故が76%と多かった。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数(表8
 複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。昨年同様、5歳以下の乳幼児では経口摂取が96%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無(表9
 昨年同様、13歳以上の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高かった。家庭用品以外では大半で何らかの症状がみられた。

10)起因物質分類別 受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について(表10−1
 5歳以下の乳幼児では昨年同様、化粧品が最も多く、ついでタバコであった。各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少、変動があるものの、起因物質の種類については例年同様で大差はなかった。

(2)自殺企図について(表10−2
 自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が非常に多く、農業用品の殺虫剤、除草剤がそれに続いている。

11)品目別 受信件数(表11 家庭用品医療用医薬品一般用医薬品農業用品
                   自然毒工業用品食品,その他
 大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。全体的に大きな変動はみられなかったが、家庭用品の防虫剤では年々、ピレスロイド製剤が占める割合が増加傾向であり、今回、パラジクロルベンゼン製剤とピレスロイド製剤の問い合わせ数が初めて逆転した。食品,その他では乱用薬物、ストリートドラッグの問い合わせが増加しており、5-メトキシ-ジイソプロピルトリプタミン(5-MEO-DIPT)などの幻覚性トリプタミン類は23件と昨年同様に多くみられた。

12)発生時刻分布(図1
 中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
 JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は昨年同様、午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時と午後6時となっている。

13)動物の中毒に関する受信件数
 動物の急性中毒に関する問い合わせは727件であった。動物種別では、イヌ663件、ネコ54件、その他10件であった。
(1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表12−1
(2)起因物質分類別 受信件数(表12−2
 動物では殺虫剤、乾燥剤・鮮度保持剤などの問い合わせが多かった。

おわりに
 問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。
5-MEO-DIPTなどの幻覚性トリプタミン類については、昨年、問い合わせが増加していることを報告し、警鐘してきたが、5-MEO-DIPTとα-メチルトリプタミン(AMT)の2物質については平成17年4月17日から麻薬指定され、規制されることとなった。今後は問い合わせが減少することが予想される。
 今後も、一般市民、医療機関およびその他の関連機関に対し、オペレーターによる電話応答のみでなく、インターネットなどの媒体を利用し、一般市民へは家庭内での誤飲や誤使用による事故を予防するための啓発活動を、医療機関やその他の関連機関へはより充実した中毒情報を提供できるよう、体制の強化を図りたい。
 現在、JPICでは化学物質によるヒトの急性中毒症例を血中濃度の分析値および中毒臨床医の評価とともに収集する厚生労働科学研究を行っている。本研究ではより多くの中毒症例の収集、解析が重要であり、中毒医療に携っている方々にはさらなるご協力をお願いしたい。研究の詳細については、本部事務局(TEL:029-856-3566、FAX:029-856-3533、E-mail:head-jpic@j-poison-ic.or.jp)までお問い合わせください。追って資料を送付します。