2005年受信報告
                                     (財)日本中毒情報センター


はじめに

 2005年は、鹿児島県の洞窟内で燃やしたダンボールの不完全燃焼によると思われる一酸化炭素中毒で少年4人が亡くなる事件や岡山県で岸壁に停泊中の船内で発生した硫化水素ガス中毒により乗組員2人が死亡する事件、秋田県の温泉地で起こった硫化水素ガス中毒により一家4人が亡くなるなど集団事件・事故が相次いだ年であった。また、7月にはG8サミット開催中のロンドンで地下鉄爆破テロが発生し、日本でもテロ対策の必要性を改めて認識させられた。テロの脅威が高まる中、昨年も例年通り厚生労働省の委託を受け、化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」を諸先生方のご協力のもと12月に主催した。全国の救命救急センター、災害拠点病院の医師や分析担当者の方々に多数ご参加いただき、5回目を数える今回のセミナーで、受講者はのべ900名を超えることとなった。
 さて、(財)日本中毒情報センター(JPIC)では情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2005年のタバコ専用応答電話の利用件数は13,779件(1日約38件)で、電話番号の変更の影響により減少していた利用件数が、変更前の状態に回復した。一方、インターネットのJPICホームページへのアクセスは一般市民向けではミラーサイトも含め約136,700件、会員向けでは約9,200件であった。賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は10件であった。
アクセス数が年々増加しているJPICホームページには、国内外で発生した化学災害のうち、新聞報道などで話題となった内容については、ニュース欄に原因物質などの情報を積極的に掲載した。前述した一酸化炭素や硫化水素に関する情報も、会員向けホームページおよび一般市民向けホームページに掲載している。
本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

 1. 集計方法

 集計の対象は、2005年1月1日から2005年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ32,179件である。受信データにはダイヤルQ2、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数13,779件は含まない(この件数を加えると2005年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は16,631件となる)。起因物質について、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

 2. 集計内容とその結果

 1) 都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ(表1
 対人口10万比は昨年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

 2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表2
 いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多かった。一般市民からの問い合わせは家庭用品が71%と圧倒的に多いが、医療機関からは家庭用品42%、医薬品36%、農業用品、工業用品の順で、様々な起因物質の問い合わせがあった。

 3) 患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ(表3
 全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが76%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50〜100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが90%を占め、医療機関では48%の問い合わせが20歳以上の成人であった。

 4) 起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数(表4
 昨年同様、家庭用品、医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多いが、農業用品については20歳以上の成人の問い合わせが78%と圧倒的に多かった。

 5) 発生場所別 受信件数(表5
 例年同様、90%が自宅、知人宅などの居住内で発生していた。

 6) 起因物質別 受信件数(表6
 単独物質の事故が94%で、残り6%が複数物質の曝露であった。中には9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられ、最大は16種類であった。

 7) 患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ(表7
 各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児では99%以上が不慮の事故である。例年同様、年齢層が高くなると故意の事故が増加するが、65歳以上の高齢者では不慮の事故が84%と多かった。

 8) 年齢層別 摂取経路別 受信件数(表8
 複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下の乳幼児では経口摂取が95%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

 9) 起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無(表9
 例年同様、13歳以上の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高かった。家庭用品以外では大半で何らかの症状がみられた。

 10) 起因物質分類別 受信件数上位品目
 (1)誤飲・誤食等について(表10−1
 5歳以下の乳幼児では昨年同様、化粧品が最も多く、ついでタバコであった。各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。

 (2)自殺企図について(表10−2
 自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が非常に多く、農業用品の殺虫剤、除草剤がそれに続いている。

 11) 品目別 受信件数(表11 家庭用品医療用医薬品一般用医薬品農業用品
                     自然毒工業用品食品、その他
 大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。シャボン玉液が減少し、食器洗い用洗剤が増加しているが、従来は洗剤を希釈した自家製シャボン玉液をシャボン玉液として集計していたのを、2005年より洗剤として集計したためである。全体的に大きな変動はみられなかったが、家庭用品のおもちゃでは、ケミカルライト(蛍光玩具)が年々増加傾向にある。乱用薬物、ストリートドラッグに関する問い合わせでは、幻覚性トリプタミン類が昨年と比べ5割近く減少していた。インターネットなどでの販売の取り締まりが強化されたことによるものと思われる。

 12) 発生時刻分布(図1
 中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は昨年同様、午前8時から午後10時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時台と午後6時台となっている。

 13) 動物の中毒に関する受信件数
 動物の急性中毒に関する問い合わせは776件であった。
 (1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表12−1
 (2)起因物質分類別 受信件数(表12−2
 動物では殺虫剤、乾燥剤・鮮度保持剤などの問い合わせが多かった。

おわりに

 問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。先にも述べたが、幻覚性トリプタミン類に関する問い合わせが減少した。これは、平成17年2月25日付け厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「いわゆる「脱法ドラッグ」に対する指導取締りの強化について」や平成17年4月1日から施行された「東京都薬物の濫用防止に関する条例」(いわゆる脱法ドラッグ条例)の制定など、2005年に法令の整備が進んだことによると思われる。また厚生労働省が、平成17年2月22日に設置した「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」では法の規制が及ばないかのような誤ったメッセージを与えかねない「脱法ドラッグ」という呼称を「違法ドラッグ」へ変更し、法的な規制強化、違法ドラッグ乱用防止のための啓発活動、関係機関間の連携強化、インターネット監視の強化などを提言している(平成17年11月25日)。これらの取り組みが実を結び、今後も違法ドラッグによる事故が減少していくことを期待する。
 さて、近年、通信手段が多様化し、ダイヤルQ2を利用できない携帯電話やIP電話などが一般家庭に普及している。日本中毒情報センターでは、広く多くの方にご利用いただけるよう、改善策を検討中である。

なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFAXにてお申し込み下さい。
    財団法人日本中毒情報センター
     本部事務局 FAX:029-856-3533