2009年受信報告
(財)日本中毒情報センター

はじめに

 2009年も化学物質に起因する中毒事件・事故が相次いだ。福岡県の博物館で空調設備から漏出したアンモニアガスを吸入して点検作業員1名が亡くなる事故、山口県のホテルでボイラーの不完全燃焼によると思われる一酸化炭素中毒で1名が亡くなる事故、愛媛県の化学工場で漏出した塩素ガスを従業員22名が吸入する事故などである。
 また、4月には北朝鮮から発射される飛翔体の落下による燃料爆発の脅威に備え、(財)日本中毒情報センター(以下JPICと略す)はホームページおよび厚生労働省を通じて医療機関等へロケットエンジン推進剤による中毒情報の提供を行った。この様な社会情勢のなか、2009年も厚生労働省の委託事業「NBC災害・テロ対策研修」を2回主催し、NBC災害・テロへ対応できる医療チームの養成を図った。
 さらに、JPICは日本中毒学会と連名で厚生労働省に対し、医療上必要性が高いメチレンブルー、Mark-Iキット、プルシアンブルー、フォメピゾールの国内未承認解毒薬・拮抗薬の早期承認を求める要望書を提出した。これらの解毒薬・拮抗薬が承認され、医療現場等で迅速に使用できる体制が早期に実現することを期待する。
 さて、JPICでは情報提供手段として、オペレーターによる電話応答と、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。2009年のタバコ専用応答電話の利用件数は13,037件(1日約36件)である。賛助会員向けファクシミリ自動応答システムはJPICホームページから各種資料を入手できる体制が整ったことから、2009年7月にシステムを中止した。1〜6月までの利用件数は、4件であった。インターネットのJPICホームページへのアクセスは、一般市民向けではミラーサイトも含め約146,900件、会員向けは約7,000件であった。企業会員向けホームページへのアクセスは約1,100件であった。
 本稿の報告対象は、オペレーターによる電話応答での受信記録のみであるが、すべて昨年同様の方法で集計解析し、その結果を以下に報告する。

1. 集計方法

 集計の対象は、2009年1月1日から2009年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ37,059件である。受信データには一般市民専用電話、医療機関専用有料電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数13,037件は含まない(この件数を加えると2009年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は17,119件となる)。起因物質について、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。
 
2. 集計内容とその結果

1) 都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ(表1
 対人口10万比は例年と比べて全国的に大きな変動はみられなかった。また、両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率は、例年同様に高かった。

2) 起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表2
 問い合わせの85%が一般市民からで、医療機関からは12%であった。
 例年同様の傾向であるが、いずれの連絡者においても家庭用品に関する問い合わせが最も多かった。とくに、一般市民からの問い合わせは家庭用品が69%と圧倒的に多いが、医療機関からは家庭用品41%、医薬品37%、次いで農業用品、工業用品の順で、様々な起因物質の問い合わせがあった。

3) 患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ(表3
 全体をみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが79%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50〜100倍に相当するという例年同様の構成比を示した。
 連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが88%を占め、医療機関では55%の問い合わせが20歳以上の成人であった。

4) 起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数(表4
 昨年同様、家庭用品、医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多く、それぞれ84%、79%であるが、農業用品については20歳以上の成人の問い合わせが78%と多かった。

5) 発生場所別 受信件数(表5
 92%が自宅、知人宅などの居住内で発生しており、例年同様多かった。

6) 起因物質数別 受信件数(表6
 単独物質の事故が94%で、残りが複数物質の曝露であった。なかには9種以上の物質の曝露による問い合わせもみられ、最大は21種の物質を曝露した問い合わせであった。

7) 患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ(表7
 各年齢層において、誤飲・誤食・誤使用などの不慮の事故が多い。特に5歳以下の乳幼児では99%以上が不慮の事故である。例年同様、年齢層が高くなると故意の事故が増加し、13〜19歳では45%、20〜64歳では31%が故意の事故であるが、65歳以上の高齢者では不慮の事故が88%と多かった。

8) 年齢層別 摂取経路別 受信件数(表8
 複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、のべ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。例年同様、5歳以下の乳幼児では経口摂取が93%と多く、他の年齢層に比べると、吸入や眼の事故の占める割合が低かった。

9) 起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無(表9
 例年同様、13〜64歳の年齢層では12歳以下の小児に比べて有症状率が高く、家庭用品以外では67〜82%に何らかの症状がみられた。

10) 起因物質分類別 受信件数上位品目
 (1)誤飲・誤食等について(表10-1
 5歳以下の乳幼児ではタバコ関連品による事故が最も多く、例年最も多かった化粧品と順位が逆転した。各起因物質分類において、上位品目となっていた起因物質の順位については多少変動があるものの、起因物質の品目については例年同様で大差はなかった。
 (2)自殺企図について(表10-2
 自殺企図では例年同様、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬が全体の約半数を占め、家庭用品の洗浄剤、農業用品の殺虫剤がそれに続いている。

11) 品目別 受信件数(表11)
(家庭用品医療用医薬品一般用医薬品農業用品自然毒工業用品食品、その他)
 大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。全体的に大きな変動はみられなかった。
 2009年は新型インフルエンザが流行したため、速乾性擦式消毒剤の問い合わせを集計する家庭用品の除菌剤・消毒剤の件数が昨年と比較して増加した。また、医療用医薬品ではインフルエンザ感染患者に処方される抗ウイルス剤の問い合わせが急増した。
 また、一般用医薬品のその他の外用薬、農業用品の石灰硫黄合剤、工業用品の硫化水素の各うち数で表示する薬剤の混合により発生した硫化水素に関する照会件数は昨年と比べて減少した。
 家庭用品のタバコ関連用品の問い合わせが昨年に引き続き増加した。殺虫成分非含有の虫よけ芳香剤の登場により昨年より増加した家庭用品の忌避剤、誘引剤の問い合わせは引き続き増加した。
 医療用医薬品では外皮用薬が中枢神経系用薬の受信件数を上回り、特にステロイド含有外皮用薬が増加した。
 その他、昨年増加した乱用薬物,ストリートドラッグの問い合わせは減少した。
 なお、2004年の規制緩和措置により新範囲医薬部外品に移行された品目は一部を除き家庭用品として集計している。

12) 発生時刻分布(図1
 中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。
 JPICへの問い合わせ状況からみる限りでは、事故発生は昨年同様、午前8時から午後9時の生活時間帯に多く、ピークは午前10時台と午後6時台となっている。

13) 動物の中毒に関する受信件数
 動物の急性中毒に関する問い合わせは592件であった。
 (1)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表12-1
 医療機関からの問い合わせは年々減少傾向にあるが、医療機関からの問い合わせが過半数を占めている。
 (2)起因物質分類別 受信件数上位品目(表12-2
 動物では殺虫剤、中枢神経系用薬、乾燥剤・鮮度保持剤、植物などの問い合わせが多かった。

おわりに

 問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。一方、2008年に多発した、硫黄含有製品とトイレ用酸性洗浄剤の混合により発生させた硫化水素による自殺については減少した。一部の硫黄含有製品の販売を中止する措置が行われた他に、JPICにおいても関係機関や日本中毒学会と連携して事故発生防止の啓発に努めたことも功を奏したと信じている。
 2006年9月から開始した一般市民に対する情報提供料の無料化以降、一般市民専用電話への問い合わせ件数は年々増加傾向(前年度比8%増)にある。中毒110番業務はもとより、2006年から開始した医薬品による副作用など緊急の安全性に関する情報提供や2008年から開始した消費生活用製品による重大事故に関する情報提供を迅速かつ充実した内容で実施できるようさらに体制の強化を図りたい。
 2009年9月に発足した消費者庁との連携では、製品事故情報を一元的に集約して公表する事故情報データバンクに協力し、JPICで把握した事故情報を提供する準備を進めている。また消費者庁の委託事業として、家庭用製品等に起因する中毒事故に関する情報収集・分析も開始した。従来の厚生労働省との連携とあわせ、今後も消費者用製品に関する中毒事故発生防止活動をより一層進めたい。
 最後に中毒110番の問い合わせ電話番号およびホームページアドレスを紹介する。
  [電話]
    ・ 一般市民専用電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
       (大 阪) 072-727-2499
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-852-9999
             365日  9〜21時対応

    ・ 医療機関専用有料電話 (情報提供料:1件につき2,000円)
       (大 阪) 072-726-9923
             365日  24時間対応
       (つくば) 029-851-9999
             365日  9〜21時対応

    ・ 賛助会員専用電話 
       賛助会員(医療機関、行政など)にのみ電話番号を通知する、年1回更新

    ・ タバコ専用応答電話 (情報提供料無料、通話料のみ)
            072-726-9922
            365日  24時間対応
            (テープによる情報提供)

 ホームページ
   http://www.j-poison-ic.or.jp 
   (ミラーサイト http://wwwt.j-poison-ic.or.jp

 なお、賛助会員、ホームページ会員についての資料請求は、以下へFAXにてお申し込み下さい。
    財団法人日本中毒情報センター
     本部事務局 FAX:029-856-3533