2003年受信報告
                                     (財)日本中毒情報センター

はじめに

 2003年は世界情勢の変化などによりNBC(N:核兵器、B:生物兵器、C:化学兵器)テロの脅威がにわかに現実化し、また国内でも化学工場などの大規模災害が新聞紙上をにぎわせた年であった。設立17年目を迎えた(財)日本中毒情報センター(JPIC)も、化学物質に関する専門機関として、その役割を改めて認識した次第である。それに関連し、昨年に引き続き、厚生労働省の委託を受け、化学災害研修「毒劇物テロ対策セミナー」を諸先生方のご協力のもと2003年12月に開催し、全国の救命救急センター、災害拠点病院の医師や分析担当者の方々に多数ご参加いただいた。
 さて、本稿の報告対象となるのは、オペレーターによる電話応答のみであるが、このほかJPICでは情報提供手段として、タバコ専用応答電話(テープによる情報提供)、ファクシミリを利用した自動応答システム、インターネット、書籍、CD-ROMなどを引き続き活用している。タバコ専用応答電話の利用件数は7,804件(1日約21件)と減少した。これは2002年9月の大阪中毒110番事務所移転に伴うタバコ専用応答電話の電話番号変更によると考えられ、ご迷惑をおかけしたことをこの場を借りてお詫びしたい。また、インターネットのJPICホームページへのアクセスは、ミラーサイトも含め一般向けは約95,000件、会員向けでは約6,800件であった。
 「会員向けホームページ」に関するトピックスとしては、2003年1月に「医師向け中毒情報データベース」を、11月に「中毒関連文献検索データベース」を、それぞれ新規公開した。また、解毒剤情報や文献情報に関しても、情報を順次追加更新した。なお、「医師向け中毒情報データベース」の公開に伴い、従来から運用している、賛助会員向けファクシミリ自動応答システムの利用件数は24件と減少した。賛助会員制度に関する詳細については、「賛助会員制度についてを参照されたい。
 オペレーターによる電話応答は従来と同様の体制で行い、その受信結果を以下に報告する。

1.集計方法

 集計の対象は、2003年1月1日から2003年12月31日までの1年間に受信したヒトの急性中毒に関するデータ36,233件である。受信データにはダイヤルQ2、医療機関専用電話、賛助会員専用電話で受信した記録すべてが含まれる。欠損事項については、不明件数として集計対象に加算して、相対構成比を計算した。なお、対象には「タバコ専用応答電話」の利用件数7,804件は含まない(この件数を加えると2003年1年間にJPICが受信したタバコに関する問い合わせ件数は11,305件となる)。起因物質については、昨年と同様、複数物質を摂取した場合であっても、データ処理上すべて1種として記録し、集計した。

2.集計内容とその結果

1)都道府県別 受信件数と連絡者のうちわけ(表1
 対人口10万比は各都道府県とも昨年とほぼ同様であり、大きな変動は見られなかった。
 両中毒110番の位置する関東および近畿からの問い合わせ比率が高いのも例年同様である。

2)起因物質別 受信件数と連絡者のうちわけ(表2
 例年同様、家庭用品に関する問い合わせが過半数を占め、特に一般市民では73%と高い。

3)患者年齢層別 受信件数と連絡者のうちわけ(表3
 年齢層別にみると、5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが77%を占め、対人口10万比では他の年齢層の50〜100倍に相当する。
 連絡者別にみると、一般市民では5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが9割を占め、医療機関では約半数が20歳以上の成人に関する問い合わせであった。

4)起因物質別患者の性別と年齢層別受信件数(表4
 家庭用品・医薬品については5歳以下の乳幼児に関する問い合わせが多いが、農業用品については20歳以上の成人が74%と圧倒的に多い。

5)発生場所別 受信件数(表5
 事故の9割が自宅、友人宅などの居住内で発生している。

6)起因物質別受信件数(表6
 96%は単独物質の事故であるが、残り4%は複数物質の曝露であり、中には9種以上の物質の曝露による事故も認められる。

7)患者年齢層別 受信件数と発生状況のうちわけ(表7
 5歳以下の乳幼児では99%以上が誤飲・誤食、誤使用などの不慮の事故であるが、年齢層が高くなると、故意の事故率が増加している。一方、65歳以上の高齢者では20-64歳に比べて不慮の事故の割合が高い。

8)年齢層別 摂取経路別 受信件数(表8
 複数経路の場合は、各経路をそれぞれ1件として計上し、延べ件数で表示しているため、表8の合計値は他の表の合計値より多くなっている。
 5歳以下の乳幼児では9割以上が経口による事故であるが、年齢が上がると吸入、眼の事故の占める割合が高くなる。また、少数ではあるが、全身曝露の事例が認められた。

9)起因物質別 年齢層別 曝露から受信までの症状の有無(表9
 例年同様、13歳以上では12歳以下の小児に比べて有症状率が高く、特に家庭用品以外では大半で何らかの症状が認められている。

10)起因物質分類別受信件数上位品目
(1)誤飲・誤食等について(表10−1
 例年5歳以下の乳幼児ではタバコの事故が最も多かったが、最近の受信件数の減少により、今年は化粧品と順位が逆転した。その他については、順位に多少の変動はあるものの、品目は例年同様であった。
(2)自殺企図について(表10−2
 自殺企図の場合の起因物質は医薬品57.9%、農業用品19.1%であり、5年前(1998年、医薬品44.7%、農業用品28.7%)と比較すると、農業用品が減少し、医薬品は増加する傾向にある。医薬品において、医療用・一般用医薬品とも中枢神経系用薬が8割を占めるのは、例年同様である。

11)品目別受信件数(表11 家庭用品医療用医薬品一般用医薬品農業用品
                  自然毒工業用品食品、その他
 大分類別に、品目別受信件数を受信件数の多い品目順に示した。品目として、今回から家庭用品に、問い合わせの多い「カビ取り剤」、「衣類の手入れ剤」、「液体蚊取り」、「ケミカルライト」、「ポータブルトイレ用消臭剤」、「ろうそく」、「除菌剤」を追加した。また、近年、インターネットでの販売などで問題視されている、いわゆる”脱法ドラッグ”に関しては、従来、医療用医薬品に分類していたアンフェタミン類やマリファナなどと合わせ、食品その他に「乱用薬物、ストリートドラッグ」として統合した。
 タバコ関連品は2000年5,041件、2001年4,542件、2002年4,012件、2003年3,501件と年々減少しており、今後も経時的に変化を追う必要がある。また、自然毒では植物に関する問い合わせが増加している一方、きのこは減少しており、これは2002年6月に法規制のかかったマジックマッシュルームが年間わずか2件と激減したことが大きいと考える。また、「乱用薬物、ストリートドラッグ」では、5-メトキシ-ジイソプロピルトリプタミン(5-MEO-DIPT)などの幻覚性トリプタミン類に関する問い合わせが27件と多く、3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)などの幻覚性アンフェタミン類に関する問い合わせもみられた。

12)発生時刻分布(図1
 中毒事故の発生時刻の傾向を把握する目的で作成したものである。2002年9月よりつくば中毒110番が21時まで相談受付時間を延長したことにより、18時から21時にかけての受信件数の増加が見られ、問い合わせのピークもこの時間帯にシフトした。

13)動物の中毒に関する受信件数
 動物の急性中毒に関する問い合わせは732件であった。
(1)起因物質別受信件数と連絡者の内訳(表12−1
(2)起因物質分類別受信件数(表12−2
 動物ではヒトと比べて殺虫剤などの問い合わせが多い。

おわりに
 問い合わせがあった起因物質や事故発生状況の傾向は、例年とほぼ同様の結果を示した。
 品目別受信件数でみると、法令で規制されていない乱用薬物は増加の傾向にあり、特に、 5-MEO-DIPTなどの幻覚性トリプタミン類や昨今頻繁に報道されているMDMAなどの幻覚性アンフェタミン類に関する問い合わせが多く、世相を如実に反映しているものと考える。これら乱用薬物に対しては、マジックマッシュルームと同じく、法令での規制が最も効果的であると考えられ、関係機関の早期対応を期待したい。